自治体防災担当者による “現場からの提言”(第1回)

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自治体防災担当者による “現場からの提言”(第1回)

第1回目は、TOAのホーンアレイスピーカーを「次世代スピーカー」と名付けていただいた静岡県湖西市 企画部 防災課 課長 高木久尚氏にお話をうかがいました。

スペシャルインタビュー

私の仕事は湖西市の全市民を災害から救うこと。まずは状況判断のための情報伝達を。

湖西市役所 企画部 防災課

課長 高木久尚(たかぎひさなお)氏

-現在、高木課長が進めておられる湖西市の防災対策の基本的な考え方を教えてください。

防災対策と一言でいってもやらなければならないことは山ほどあり、「これをやっておけば大丈夫!」といった答えや「ここまで対策を取っておけば大丈夫!」といったゴールもありません。ただ、私の中ではっきりしていることは、防災対策の出発点は個人の防災意識と危機管理だということです。地震が起きた場合、都市部の住民は高い建物やビルから離れる、火災の発生しそうな場所から離れるといった行動を取ります。また、海岸部に近い住民は、津波を避けようと高台を探して避難しようとします。これらは、人間一人ひとりが持っている、教育を受けて知っている「防災力」だと考えています。行政は「防災力」を持って避難行動を起こせる住民を育て、増やし、その「防災力」を集約して、住民の命を救い被害を防がなくてはなりません。
そのために必要なもの、私は「情報伝達」だと考えています。正しい情報を素早く収集し、それを迅速・正確に伝えていく、また伝える手段を複数持っていることが重要だと考えています。もちろん、津波を防ぐための堤防や避難デッキも必要だとは思っています。しかしながら、地震は津波だけではなく、家屋の倒壊、火災、土砂崩れ、液状化…、原発事故も引き起こすものです。湖西市では、地震による津波被害を優先して警戒する地域特性がありますが、それでも津波被害だけを警戒していればそれでいいということはありません。そのためには、地震をはじめとするすべての災害に対して対策を施すには、「しっかりと危機管理ができて避難行動を起こせる人」を育てて、その方々に正確な情報を伝達することで周囲を巻き込んで避難するなどの行動を誘導していく必要があるのです。ハード対策も当然必要になりますが、その優先順位を明確にすることが重要です。湖西市では情報伝達システムの整備をまずは重点的に取り組んでいます。

-「情報伝達」で重視されるポイントは?

近い将来発生するといわれる東海地震に備えて、静岡県では「情報伝達」の手段として、以前より防災無線などが整備されていますが、中には35年も経過しているものもあります。電話でも、昔の黒電話から携帯電話、そして現在はスマートフォンの時代になっています。それに当てはめると、「防災情報の伝達も黒電話の時代ではない」と考えるわけです。最新の情報伝達手段があって、その方が早く正確に、複数の手段で伝達できるのであれば、その導入を何よりも優先しなければならないのではないかというのが私の結論です。

とくに、今の日本は超高齢化社会です。目や耳が衰えてきているお年寄りにも災害情報が正しく、わかりやくす伝達出来るような手段を考えていく必要があると思っています。
そのために、屋外では従来スピーカーよりも遠くまで、明瞭な音が届く長距離伝達スピーカー「ホーンアレイスピーカー」に目を付けたわけです。また、次を担う子どもたちの命を救うために、いち早く緊急事態を伝えたいということで、保育園や幼稚園、小中学校に対し既設の公共IPネットワークを活用して「J-ALERT」による災害発生時の緊急放送や避難を促す放送を園内や校内に行おうと考えたわけです。いずれも黒電話の時代にはなかった技術であり、導入することで情報伝達のスピード、効果が飛躍的に向上します。また、既設設備の有効活用にもつながり、費用対効果も期待できるわけです。

-最初にホーンアレイスピーカーの音を聞かれた時の印象は?

以前、テレビ番組でラインアレイスピーカーの効果*について放送していたのをたまたま見ていて、なんとなく「防災スピーカーにこんなものがあったら遠くまでクリアに聞こえるだろうな…」と思っていました。そうしたら、ある日その技術を用いた防災スピーカーのチラシをTOAの営業が持ってきて、「これはいいぞ!」と直感で感じました。私は何でもデモをして、見聞きしないと気が済まない性格なので、昨年の10月にTOAでも初めてのホーンアレイスピーカーのデモ試聴会を実施する運びになったのです。

私としても1度も聞いたことのないスピーカーのデモをするのに不安はありましたが、腹を括って市長や新聞社にも声をかけて大々的に実施しました。従来スピーカーとホーンアレイスピーカーを並べて聞き比べをしたのですが、たまたま会場のグラウンドでゲートボールをしていたお年寄りが、大きな音に怒る様子もなく、「課長、こっちのスピーカーの方がいい。このスピーカーに早く替えて」と話しかけてきたのです。これにはびっくりしたと同時に、小さくガッツポーズしました。大きな音量で流しているにも関わらず、聞こえやすい音はホーンアレイスピーカーだと証明してくれたわけですから。

-最後に、全国の防災担当者の方にエールをお願いします。

以前に、同報無線による防災放送を、住民からの「うるさいので鳴らすな」、「撤去してほしい」といった苦情でやめている自治体があると聞いたことがありました。しかし、東日本大震災以降は、苦情で同報無線を取りやめた、あるいは撤去した自治体に、「うちでは同報無線で報せてもらえないのか?」といった住民からの確認の連絡や要望が寄せられていると聞きます。
防災に限らず、さまざまな行政上のトラブルはあると思いますが、私の仕事は、湖西市の住民約62,000人の命を救うことだと思ってやっています。住民の方々が一番心配する大きな災害が本当に起こったときに、「あぁ、うちは良かった」と思ってもらえるための対策を行うこと、そのための情報伝達の手段として現時点で有効なのは、遠達性と明瞭性に優れたホーンアレイスピーカー、IPネットワークを活用した迅速な放送システム、そのほか外国人の方にもわかるLED表示板や広域誘導フラッシュ(※1)、携帯電話でのメール配信等の組み合わせだと思っています。
どんなに私たちが一生懸命考えてこれがベストだという答えを出しても、10人に対して必ず1人は反対します。それが人間というものだと思います。1人の住民の意見を聞くのか、残りの9人の住民の意見を聞くのか、そこはしっかりと答えを出す必要があります。私は情報伝達の重要性に対して確信をもって防災対策を行っています。時代とともに新しい技術が生まれ、他に画期的な防災対策が出てきたら、その時点で検討していけばいい話だと考えています。
私はある程度の段階でこれが核心だと思ったら、躊躇しないで行動を起こすことと、間違ったと思ったらすぐやめることを信念にしています。「即行即止」の考え方です。正しいと思ったことはすぐに実行に移す、間違ったと思ったらすぐにやめる。そして、何においても「今しかない」というタイミングがあります。防災対策を行うには今を置いてほかにありません。防災担当者として、それぞれの信念で住民の命を救える取リ組みが増えていけばいいなと思います。

(※1)導入に向け検討中

湖西市の概要と想定される自然災害

湖西市の概要

湖西市は、静岡県の最西端に位置する市で、浜松市、豊橋市に隣接、南側は太平洋、東側は浜名湖に面している、自然豊かで温暖な気候の町です。86.65平方キロメートルの市域に、人口は約62,000人、世帯数約23,000世帯が生活しています。中でも、人口の約1割が外国人で、おもに自動車産業に従事しています。旧浜名郡の一部で、1972年に市制施行、2010年3月23日に浜名郡新居町と合併し、今年2012年に市制40周年を迎えます。
トヨタグループの始祖、 豊田佐吉氏 の出身地ということもあり、自動車関連産業を中心とした製造品出荷額は静岡県下第4位を誇っています。その他、恵まれた自然を生かした農業・漁業の合理化・近代化、区画整理や道路整備による商業の充実など、さまざまな施策が進められています。

東海地震では震度7、津波6メートル弱、南海トラフ大地震では約18メートルの大津波の襲来を予想

東海地震が起こった場合、湖西市は震度6~7相当の長い揺れが予想され、その際の津波高は1.7m~5.6m程度が5~10分以内に到達するといわれています。実際に、過去の文献によると、安政東海地震時の津波の高さは最大で6.3mにも達したといわれています。津波の侵入による施設の破壊、浸水等による被害の可能性も指摘され、沿岸部では、地震時に液状化にともなう噴水や地盤軟弱化、家屋の損壊や出火による延焼火災などによる被害も予想されています。
南海トラフ地震は震度7が想定され、大規模なプレートの「超大すべり」が発生した場合には、遠州灘沿岸には最大17.7mの高い津波が襲来し、津波災害を引き起こすといわれており、地震と津波で壊滅的な被害を受けることが予想されます。
また、台風と高潮では、集中豪雨と高潮による湖面上昇などから、排水機能が麻痺し、内水氾濫による浸水被害の拡大が予想されています。台風や豪雨により長期湛水の可能性があり、傾斜地は地盤の吸水性が高く、集中豪雨時は崩壊に注意する必要があるともいわれています。
南海トラフ地震については、静岡県の第4次被害想定、もしくは南海トラフの巨大地震検討会の詳細が示されるまでは、現在の被害想定に対する対策を考えています。

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