倉敷市緊急情報提供システム

特集

倉敷市緊急情報提供システム(IPv6方式)

課題・解決のポイント

既設の有線ネットワークを活用した先進の緊急情報提供システム。

既設の光ファイバー網を活用し、有線ネットワークと無線LANを併用した新しい緊急情報提供システム。断線や停電などの有線のデメリットをカバーする独自の発想と工夫。さらに、従来の防災行政無線では、音声を一方的に伝えるだけであったのに対し、映像や双方向といったデジタルのメリットを活用することでリアルタイムでの災害対処を可能にするなど、緊急事態になったときに、確実かつ迅速に対応できることを目指した先進のシステムです。

納入時期 平成19年10月より整備開始し、一部稼働中(平成23年3月完成予定)
納入先 倉敷市 様
納入背景 台風16号、18号、23号(平成16年)発生時、災害情報がきちんと市民へ伝わらなかった。

課題

  • 全市民に確実に緊急情報を伝えたい
  • 避難所や現場の状況を迅速に把握し、適切な処置を行えるようにしたい
  • コストパフォーマンス

解決のポイント

リアルタイムで現場を把握し、双方向で情報を伝達。被害を最小限に抑える!

  • 有線ネットワーク切断時対策と、コミュニティFM局とのタイアップ
  • IPv6ネットワーク(映像、双方向性)の活用
  • 既設の光ファイバー網の活用
  • ネットワーク音声伝送システム(IP告知放送システム)の採用

導入システム・機器

緊急情報提供システム(IPv6方式)

倉敷市 緊急情報提供システムの概要

既設の光ファイバー網(かわせみネット)と無線LANのハイブリッド方式。その光ファイバー網で指令送信拠点9カ所(本庁・支所・消防局)、 各種機関を結び、光ファイバー網に接続していない拠点へは無線LANを用い、TOAのIP告知放送システムで音声データを伝送して放送します。 同報スピーカーが設置されている拡声拠点(公共施設や拡声塔)は約350カ所になる予定です。核となる本庁と各支所は、二重環状でつながっており、1カ所が切断しても通信網は確保。 無線LANにおいては通信ルートに障害が発生した場合、通信可能な他のルートがあれば自動的にそちらへルートを切り替えて通信を継続することが可能。移動系端末としてIP携帯電話を活用できます。民間の緊急告知FMラジオも連動しており、本庁放送装置では全国瞬時警報システム(J-ALERT)にも対応しています。

  • システム概要図

Point

  • 光ファイバー網と無線LANのハイブリッド方式
  • ネットワーク音声伝送システム(IP告知放送システム)の採用
  • 映像も伝送でき、現地の状況を確認することが可能
  • 1カ所が断線しても迂回することでネットワークをつなげることが可能
  • 無線LANの通信障害発生時には別ルートへ自動接続し通信を継続
  • コミュニティFM局の緊急告知FMラジオと連動
  • 全国瞬時警報システム(J-ALERT)に対応

お客様が語る「採用のポイント」

  • 音声を一方的に送るだけではなく、映像を見ながら双方向で状況を伝え合うことができる
  • 既設のネットワークを使えるため、コストと機能のバランスがうまく取れていた
  • 阪神・淡路大震災の例で、光ファイバー網の安定性は実証されていた

採用決定ストーリー

有線ネットワークを軸に構築した防災行政の新しいかたち

映像と双方向の概念を取り入れ、リアルタイムでの緊急放送を実現。

  • 防災放送といえば「無線が常識」だった頃に、いち早く有線ネットワークに着目し、当時としては独創的な緊急情報提供システムを構築した倉敷市。温暖な瀬戸内海式気候により晴天に恵まれるとともに、市内を流れる高梁川の豊富な水源のおかげで水不足にもなりにくいことから自然災害とはほとんど無縁だった倉敷市が、なぜ全国にも例のなかった有線ネットワークを活用した緊急情報提供システムを構築することになったのか。そこにはとても苦い経験と防災行政についての先進的な取り組みがありました。

    • 災害に対応できる街づくりを目指して。
    • 無線か、有線か。常識を覆すプロジェクトが始動。
    • コストパフォーマンスに優れたシステムを構築。
    • 二重、三重の細やかな断線対策。
    • 現地の状況をリアルタイムで把握。
    • ソフトウェアの拡充が次のハードル。
    倉敷市役所


    緊急情報を拡声する拡声塔のスピーカー

1. 苦い経験を経て生まれた意識改革。災害に対応できる街づくりを目指して
  • 倉敷市は『晴れの国おかやま』のキャッチフレーズに謳われる通り、四国山地の影響もあって台風が直撃して被害を受けることはほとんどありませんでした。しかし、平成16年に台風16号、18号、23号の直撃を受け、高潮や土砂崩れ、洪水といった災害を被りました。それは市職員をはじめ市民全体に「倉敷市には災害はやってこない」との間違った常識が、一挙に覆された“大事件”でした。さらに、その際、市役所では、消防機庫の拡声装置から同報できる消防団召集システムと広報車を利用して市民に伝えていましたが、「よく聞こえなかった」という声が寄せられたそうです。せっかくの防災放送が、肝心なときに十分に伝わっていない現実を目の当たりにしたことから、倉敷市独自の緊急情報提供システム構築への模索が始まったのです。

    公共施設や市内全域に配置された拡声塔にはIP告知端末が設置されており、ネットワーク経由で伝送されてきた緊急放送を瞬時にスピーカーから拡声します。
2. 無線か、有線か。常識を覆すプロジェクトが始動した。

市では、当初、同報系の防災行政無線を新たに整備する方向で検討を行っていました。しかし、平成17年に市町村合併を経てさらに広くなった市域をすべてカバーするためには莫大なコストが必要でした。さらに、せっかく整備しても災害が起こったとき市民にきちんと情報が伝わらないようなことでは意味がありません。その2つの課題を解決するためのキーワードが、IPネットワークの活用だったのです。

急いで防災設備を見直すに当たって、8名からなるプロジェクトメンバーを召集し、検討を開始しました。メンバーはすべて市の職員で構成されており、コンピューターに強い人、情報管理に長けた人など、さまざまなエキスパートによる理詰めの討論を行いました。そこで繰り返し議題に上ったのは無線か、あるいは有線か。両者のメリットとデメリットについて議論し尽くしました。有線の場合は、断線や停電が起こった場合、機能しなくなります。その一方で無線では基地局や中継局が被災した場合、全システムがダウンしてしまいます。結果、予算もさることながら、デジタルのメリットを生かすことが市の防災力を高めることになるとの判断から、IPネットワークを軸にしたシステムの構築へと一気に舵を切ったのです。

3. 既設の光ファイバーネットワークを利用し、コストパフォーマンスに優れたシステムを構築。

結論から言えば、同市の緊急情報提供システムは既設のネットワークを活用することで、従来の同報系無線の整備と、同時に老朽化した移動系の防災無線システムを整備するのと比較して、約1 / 2強のコストでシステムを構築することができました。 倉敷市は、以前から光ファイバー網(通称:かわせみネット)を市内全域に整備していました。同システムは、その光ファイバー網を活用し、倉敷市本庁・消防局・支所に設置した放送装置から各公共施設に設置した拡声子局へ放送を行い、光ファイバー網に直接接続していない公共施設( 例:公園、公民館など)、消防団機庫などに設置した拡声子局(放送装置)へはIP網、あるいは無線LANを用いて約350カ所の屋外拡声塔から緊急放送を行うというもので、まさに有線と無線のハイブリッドと言えます。また、TOAのIP告知放送システムはSIPサーバを使用していないため、毎月のランニングコストの抑制にもつながっています。

4. 有線のデメリットをカバーする二重、三重の細やかな断線対策

IPネットワーク(IPv6方式)を活用した同市の緊急情報提供システムは、有線によるデメリットを払拭し、ネットワークのメリットを生かす試みが多く取り入れられています。 まず、最大の課題でもある切断対策。ポイントは、システム全体の核となる倉敷市本庁と各支所のネットワークが二重環状につながっている点で、もしどこか1カ所が切断しても、通信が途切れないように配慮されています。 また、市民の末端まで情報を行き渡らせるために、コミュニティFM局にも支援を得て緊急告知FMラジオに連動しています。倉敷市と防災協定を結んでおり、緊急情報が入った場合、割り込んで放送するようになっています。FM放送を活用することで台風や大雨時の家の中やネットワーク伝送できない山間部などでも緊急告知情報を聴くことができ、市民への伝達を補完しています。


緊急放送が市民にきちんと届くように、
市内のいたるところに拡声塔は設置されています。

5. 現地の状況をリアルタイムで把握し、一歩進んだ減災を実現。
  • 次の課題は正確性。平成16年の台風災害を教訓にした市としては、より確実に緊急情報を伝えることは必須事項でした。しかし、ただ伝えるだけでは防災システムとしては不十分だと考えた同市では、独自の取り組みを行っています。従来の防災行政無線は単に音声を送るだけで、避難場所での行動は現地での裁量に任されていました。防災行政無線では無理でも、有線ネットワークを使えば大きなデータを送ることができます。たとえば映像データ。避難所に監視カメラを設置することで、避難されてきた市民の状態をリアルタイムで確認でき、それに対して的確な指示を送ることもできます。災害は刻一刻と進んでいきます。今まさに必要な情報を送ることが、本当に正確な緊急情報と言えます。そのために、同市では双方向で情報を伝え合うことが、被害を最小限に抑えるポイントとしています。

    さらに、デジタル機器はコンピューターとの親和性が高く、将来にわたっていろいろな可能性が広がります。たとえば移動系端末としてIP携帯電話を活用すると、その携帯電話で撮影した画像を転送し、川の水位の様子など現場の今を迅速に把握することも可能となります。このような機器の拡張性もIPネットワークを活用した同システムの優位点の一つです。

    本庁に設置された統合卓。各種放送をコントロールできるほか、避難所に設置された監視カメラの映像も確認できます。
6. ソフトウェアの拡充が次のハードル。減災への挑戦に終わりはない。

平成19年よりスタートした倉敷市の緊急情報提供システムの整備事業は、平成23年で完成予定です(一部稼働中)。

しかし、ハードを整備しても、機械が人命を救ってくれるわけではありません。その情報を聴いた市民がいかに適切に行動できるかが、大切になってきます。そのためには、ハードのさらなる整備はもちろんのこと、地域の自主防災組織といったソフトの育成がこれからますます大切になっていきます。災害をゼロにすることは難しいが、それをいくらかでも少なくする減災への取り組みを徹底して進めるために、倉敷市の挑戦に終わりはありません。

インタビュー記事

インタビュー記事

既成概念にとらわれることなく、自由な発想から生まれたシステムです。

倉敷市総務局 防災危機管理室 課長主幹 梶田 英司(かじた えいじ)氏

阪神・淡路大震災でも、光ファイバー網の安定性は実証されています。

倉敷市まちづくり部 情報政策課 主幹 西川 俊作(にしかわ しゅんさく)氏

防災行政無線の整備において、有線IPネットワークに着目された理由は?

梶田氏

コストと機能のバランスですね。従来の防災行政無線の整備にかかる概算予算は、一方通行の無線システムにしてはかかりすぎだと思いました。これだけデジタルが当たり前になっている現代社会において、まったくデジタルのメリットが生かされていない。ならばデジタルの同報系を整備するために、倉敷市が持っている光ファイバーネットワークを利用しない手はない、ということで研究をしはじめました。

西川氏

災害時には、音声だけ届けることができても、現地から返事が来ないでは困ります。より的確な情報を現場に近いところから収集して、現場に近いところから発信するためには、従来の無線帯域ではデータ量に制限があり、不可能でした。また、災害が起こったときには、電話回線はパンクしてしまいます。それに対して倉敷市のIP網は十分なキャパシティを確保しているため、話し中になることはまずないかと思います。

他では例のなかった有線ネットワークシステムを採用することに抵抗はありませんでしたか?

梶田氏

当然、不安はありました。個人としてはIPを使ったシステムを構築したいと考えていましたが、周囲には「できない」という意見が多かったですね。しかし、私はある意味、ネットワークについては素人だったため、「できるのでは」と最初は漠然と考えました。当時、倉敷市では自前で持っている光ファイバーネットワークで総務省のIPv6実証実験を行っていたこともあって、上層部にIPやネットワークに関する知識と理解があったことも幸いし、その事業を推進いたしました。

西川氏

ありました。「無線があるのに、なぜ有線を使うのか」とか、いろいろ言われました。有線にも無線にも一長一短があり、完全ではありません。だからこそ、有線と無線のハイブリッド化を進めたのです。通常はよりキャパシティの大きい有線で行い、ダメになったら無線で最低限の放送を行う、と。お互いが補完しあうようなかたちでバランスを見ながら整備を行いました。その点では、阪神・淡路大震災の際、自設のファイバーネットワークを用いたシステムが通信を維持できていたという実例があったことも心強かったです。

平成23年に、ようやく整備が一段落します。ここまできての感想は?

梶田氏

前例もなく、ハードウェアも満足に揃っていない状態で、全くの手探りでやってきました。そのなかでプロジェクトを進める際に市の職員だけで議論を重ねたことが、かえってよかった気がします。最初からどこか一企業に頼っていては、その企業が得意な部分はいいが、不得意な部分の可能性は早い段階で摘まれていたのではないでしょうか。倉敷市はこういったシステムをつくりたい、という理想に対して、倉敷市が持っている、あるいは市内で使える資産、たとえば今回の場合は「かわせみネット」や「FMくらしき」の緊急告知FM放送を活用することなど、既成概念にとらわれることなく自由な発想で進められたことが、コスト面でも完成度の面でもよかったと思います。

西川氏

個人的には、インフラの整備に関してはほとんど終わったかな、と思っています。次は無線とのハイブリッド化ですね。無線と有線が、お互い補完しあいながら優先制御を考えています。たとえば電柱にクルマが突っ込んで線が切れてしまったとき、自動的にIP無線システムを使って補完するようにすることで、日常の業務に支障を来さないシステムを目指しています。大きな投資を行うことなく、可能な限りのバックアップを続けていきたいと考えています。

倉敷市の概要

岡山県の南中央部に位置し、国内有数の工業都市にして、自然と観光にも恵まれた倉敷市。354.72平方キロメートルの広い市域に、人口約48万人、世帯数にして約19万2600世帯が暮らしています。
倉敷川沿いの白壁の町並みが有名な観光地・美観地区がある一方、製造品出荷額4兆円を誇る石油化学コンビナートを有しています。さらに、ブドウやスイートピーの生産でも国内有数の産地であり、ジーンズや畳表といった産業も盛ん、とさまざまな表情を持っています。また、山陽新幹線や山陽自動車道、さらに本州と四国を結ぶ瀬戸大橋と瀬戸大橋線も市内を経由しており、交通と物流の要としても重要な位置を占めています。

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