画像解析の現場から考える 防犯カメラのあり方

特集

画像解析の現場から考える 防犯カメラのあり方

法科学鑑定研究所 法工学研究主査
石橋宏典(いしばしひろのり)氏

近年、犯罪捜査の過程で防犯カメラの映像が犯人逮捕に貢献するケースが増えています。
今回の特集では、防犯カメラの映像が実際にどのように解析され、犯罪の解決に利用されているのか、その一例をご紹介するとともに、画像解析の現場から防犯カメラの設置や運用に関する留意点を伺うべく、東京都新宿区の法科学鑑定研究所様を訪問しました。

(取材日:2012年8月)

犯罪捜査における防犯カメラ映像の画像解析とは

我々は民間の研究機関として、警察をはじめとした様々な公的機関、また一部民間からも依頼を受けて画像解析を行っています。もちろん、警察の内部にも同様の解析を行う機関はありますが、我々には制度に縛られないという民間ならではの自在性があり、特にスピードが求められるような案件でその特性を活かしています。

画像解析は、防犯カメラなどに記録された画像を鮮明化し、その画像からある特定の情報を抜き取り、解析を行うものです。主なものに対人異同識別というものがありますが、これは、例えば指名手配犯の写真と防犯カメラに映っている人物が同一であるか否かを特定するといった作業です。この際に重要なことは、表面的な目鼻立ちというよりも、その人の顔の骨格に着目することです。鼻梁、頬骨、眼窩、下顎といった部分ですね。骨格は、痩せても太っても変わりませんし、よほど思い切った整形手術をしなければ変えることができないでしょう。それらの位置関係を割り出すことができれば、同一人物かそうでないかを判定できます。そこで私たちは骨格のデータを非常に細かな三次元の座標にして、互いに照合する手法をとっています。

  • 人の顔の骨格には数百の識別ポイントが存在するという

これらの作業を行うためにも、記録画像の鮮明化が重要なのです。防犯カメラの画像は、ピンボケや画素が粗いものなどがありますが、そこから対象の特徴を抜き出すことのできる画像にしなければなりません。一般的に、鮮明化のための処理というと輪郭強調のようなカメラの機能を使って画像のシャープネスを上げればいいのではないかと思われるかもしれませんが、我々の作業ではそうではありません。ブロックノイズなどのノイズ類をぼかすことで、除去するという考え方を取っています。交通事故の画像解析もよく手がけるのですが、例えば事故の際にシートベルトをしていたかどうかを判別する場合、ベルトの帯の輪郭だけを強調しようとしても意味がなく、そこにシートベルトと認めるに足る色調の差分があるかどうかが重要なのです。

多岐にわたる解析対象や担当事例

犯罪捜査に協力する場合、我々の仕事は犯人の検挙というよりも、容疑者の絞り込みに利用されることが多いです。仮に容疑者が10人いるとすれば、それぞれに2人ずつ捜査員を張り付けると20人必要になりますが、2人に絞り込めれば4人で済みます。そうやって捜査を効率的に進められれば、より迅速な犯人逮捕につながるのではないでしょうか。

我々の解析対象は非常に多岐にわたっています。これまでお話しした刑事事件の対人異同識別はもちろん、カメラに映った自動車のナンバーの割り出し、車体のへこみなどから車両を特定する等、かなり多く依頼されます。また、エスカレーターで事故が起きた際に、その事故が発生した時に実際に何人の人がエスカレーターに乗っていたのかカウントするという案件もありました。さらに少し変わったところでは、ワシントン条約で輸入が禁止されている種類のワニを、ペット用として密輸しているという容疑があり、カメラに映っている生き物がそのワニであるか否かという鑑定を行いました。その際には動物園に協力してもらい、実際に自ら本物のワニを持って検証を行ったのですが、あんなに怖い思いをしたことはありません。

このように解析の対象は幅広いのですが、人にしても車にしても、画像を見ただけで誰もが識別できるようなものは、うちには来ません。識別が難しいからこそ、依頼が来るわけです。

防犯カメラの設置で留意しなければならないポイント

防犯カメラを設置する上で重要なポイントはいくつかありますが、まず、どのような目的で、どのような画像を得たいのか、ということです。金庫の前に防犯カメラを設置するとして、逆光で人相が見えなかったり、後ろ姿しか捉えられなかったりというのであれば、設置する意味がありません。また、犯人が画角的に小さくしか映っていなければ、拡大した際に画素が粗くなり、識別が難しくなります。人の顔は三次元ですので、見る方向によって見え方がかなり異なります。さらに、光の当たり方でも、随分と違う見え方になります。

  • 光の当たり方で印象が変わる人の顔

ですので、防犯カメラを設置するには、設置場所、光の方向、画角(画面に映る被写体の大きさ)などをしっかりと考えた上で設置することが重要です。また、ぜひ複数のカメラを設置することをお願いしたいですね。可能であれば、違う角度から3台のカメラでターゲットを狙ってほしいところです。難しければ2台でもいいのですが、複数の角度からの画像があれば、顔の骨格を三次元的に解析する際のデータが多く取れて、精度も向上します。
犯人側もリスクは少しでも減らしたいと思っていますから、そのようにしっかりと考えられて防犯カメラが設置されている場所は敬遠します。商業施設などで強盗に入られた場合、かなりの被害金額になると思うのですが、それに比べれば防犯カメラを増設することの方がかなり安く済むのではないでしょうか。

また、防犯カメラは、証拠を保全するという基本的な目的があります。カメラ自身の基本性能が優れていることはもちろんですが、画像データを長時間記録する機能に加え、そのデータを簡便に取り出せることが重要であることも付け加えておきます。

最後に、もう一つ絶対に忘れてならないのが、コンプライアンスです。映っている対象者には人権やプライバシーがありますので、犯罪捜査に関係のない第三者に画像を見せるとか、画像の流出などは、決してあってはならないことです。これらのことに留意していただいて、より効果的な防犯カメラの設置や運用を行っていただけるとありがたいです。

まとめ

石橋氏の話を通して、防犯カメラのあり方とは、高画質なカメラを選択することだけでなく、監視場所・監視対象に応じた適切なカメラやレンズの選択に加え、被写体がどのような大きさや明るさで映るのかなど、カメラの設置場所が重要であると再認識していただけたのではないでしょうか。

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法科学鑑定研究所株式会社の概要

DNA鑑定や指紋鑑定、筆跡鑑定など幅広い鑑定業務から検査分析業務、試験研究および開発を主たる業務としている民間企業。 その経験から、テレビドラマや映画などの科学捜査の監修・撮影協力や、新聞・雑誌・報道番組の取材協力、書籍や雑誌の翻訳協力も行っている。

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