自治体防災担当者による “現場からの提言”(第6回)

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自治体防災担当者による “現場からの提言”(第6回)

第6回目は、2013年(平成25年)に防災行政無線のデジタル化整備事業を担当され、現在は多様な手段で災害情報の伝達に力を入れておられる鳥取県日吉津村の総務課 課長補佐 仲原章二氏にお話をうかがいました。

スペシャルインタビュー

すべての住民へ迅速かつ正確な情報伝達こそが防災の基本。住民が災害情報収集に対して動線を確保できる仕組みを目指す。

日吉津村役場 総務課

課長補佐 仲原 章二(なかはらしょうじ)氏

-仲原さんの日吉津村役場での経歴を教えてください。

私は生まれも育ちも日吉津村です。学校を卒業後、民間企業で自動車学校の指導員や路線バスの運転手、弱電関係の企業に勤めていました。日吉津村役場には中途採用での入庁になります。
最初の配属は総務課で、公用車や村のマイクロバスの運転業務を11年ほど担当しました。その後、建設産業課に異動し、下水道とか道路工事の各種申請業務や工事契約の手続き、下水道使用料の賦課・徴収などを行っていました。建設産業課の思い出は、「うなばら荘」の前の旧淀江町(現在の米子市淀江町)につながる村道温泉線の橋の架け替え工事を手掛けたことです。日吉津村と淀江町の境界部分ですが、米子市との間でも長年の懸案事項となっていました。といいますのも、排水路を挟んでジェットコースターのように道路が急勾配で下っており、川を挟んだ橋の両サイドの幅員は広いのですが、橋の間は幅員が狭く、車がすれ違うこともできず、いつ事故が起きてもおかしくない状況でした。ちょうど私が担当のときに話がうまく進められまして、下がっているところを嵩上げして平地にし、狭かった橋の幅員を広くして通行しやすくしました。現在では真っ平なしっかりした道路に生まれ変わり、米子市内に抜ける国道431号線の裏道としてよく利用されています。結果として村民の皆さんだけでなく、米子市民の方なども生活で利用していただける事業になったと思います。
建設産業課には7年間在席し、平成23年7月に総務課の防災担当に異動になり、現在に至っています。防災担当になってから丸4年が経ちました。当初は防災の知識もまったくなく、また東日本大震災が発生してまだ数カ月の頃だったので大変でした。鳥取県からの要請で義援金や救援物資の協力を行ったり、職員を派遣するなどの協力を行いました。鳥取県は宮城県の支援を行うことになっていましたので、職員は南三陸町に派遣されました。
日吉津村は、15年前にマグニチュード7.3の鳥取県西部地震が発生し、本村でも震度6弱を記録しましたが、幸いにも大きな被害はありませんでした。それ以外はとくに大きな災害は記録されていません。ただ災害となると総務課が中心となって各課から職員を招集して災害対策パトロールや見回りをします。そういう意味で防災の意識は多少ありましたが、実際の担当業務についての知識はまったくありませんでした。

-仲原さんが取り組まれた防災行政無線のデジタル化整備事業のことを教えてください。

私が防災担当になった時には、昭和59年ごろに整備されたアナログ式の防災行政無線を使用していました。しかしながら、音声による情報伝達のみで、すべての日吉津村民に対して情報を万遍なく伝達することはできていませんでした。また、土地区画整理事業によって宅地開発できる場所(住宅)が増えた関係で、従来のトランペット型の屋外拡声器では届かない場所ができてしまいました。村長から日吉津村のどこにいても情報が伝達できるようにという指示があり、そのことを重点として工事に着手することになりました。
デジタル化と一言でいえば簡単そうに聞こえますが、電波は目には見えない世界ですし、もともと知識もありません。やりたいことはあっても、当初はできるかどうか全然イメージが湧きませんでした。まず、今までの防災行政無線の保守を依頼している業者に相談しました。少しずつ知識を増やしては相談しての繰り返しといった感じでした。その過程の中でデジタル化の全体像のイメージを創っていくのが難しかったですね。
それから、事業にかけられる予算には限度がありますので、あれもこれも欲張ると収拾がつかなくなります。東日本大震災以降、「想定外」の事態を招くことは許されませんが、あまりそこに拘ると際限がなくなってしまいます。住民に「これは必要!」、「これは便利!」と納得してもらう、理解してもらうために、防災行政無線が聞こえない場所もカバーする、聴覚障がい者の方にも防災行政無線の内容を伝達したいということで、道路事業で経験した感覚に近いですが、住民が災害情報収集に対して動線を確保できる最適な組み合わせを考えるように努力しました。

結果的に、防災行政無線の中心となる親局のデジタル化を行い、さらに災害時などで親局が故障したときのバックアップ用に可搬式の非常用親局制御装置の導入(当時全国3例目)を中国総合通信局と協議し、設置しました。さらに平坦地で南北に長いという地形の特性を考慮し、従来型トランペットスピーカーの2倍〜3倍音達距離が長いホーンアレイスピーカーを役場屋上から南向けに、小学校屋上から北向きに設置し、南北エリアにはこの2基でカバーし、残りの東西エリアの音達不足エリアは従来型トランペットスピーカーで補い、村内全域の屋外で防災行政無線の音声を聞くことを可能にしました。全方位に放送できる長距離スピーカーのみでカバーすることは村の面積的に可能でしたが、もしその1箇所のスピーカーが故障したらと考えるとリスキーだと感じ、指向性がとれるスピーカーの屋外鳴動デモンストレーションで音達効果を確認しながら、複数配置で検討しました。また、屋外放送だけでなく屋内にいる住民にも防災行政無線の情報を届けるために、戸別受信機を全戸に配布しています。

そのほか、村が定めた一定の基準を満たす事業所、公共施設、不特定多数の人が集まる施設にも戸別受信機の貸し出しを行っています。さらに、聴覚障がい者(障害者手帳6級以上)の方には、専用の戸別受信機と文字表示機をセットで貸し出すことにより、文字による情報収集を可能にしましたし、放送を受信したことがわかるように、腕時計式のバイブレーターの貸し出しも行っています。日吉津海岸では、津波災害や近年何度か発生した水難事故に対応するために、緊急の場合には役場へ直接連絡が取れるよう屋外拡声子局に送信機も設置しました。また、海岸や沖合におられる人に対して情報提供ができるように、LEDの屋外文字表示機を設置し、音声と文字で情報発信ができるようにもしました。
とにかくいくら計算してみたところで、どのような災害が起こるかわからないので、リスクヘッジで最悪の場合でもどれか1つの手段で情報伝達したいと考えました。イメージの全体像構築に2、3カ月かかりましたが、年度初めに検討を始め、確か7月くらいに発注の準備をし、単年度事業で実施することができました。財源に関しては緊急防災減災事業債を活用しました。日吉津村の取り組みが比較的他の自治体よりも早かったこともあり、なかなか防災行政無線整備の補助金についての情報が見つかりませんでしたが、県に相談したところ事業債の存在を教えていただいて、使わせていただきました。

-仲原さんは情報発信も積極的ですね。

今回の防災行政無線のデジタル化は大規模だったので、住民の方に積極的に周知したいと考えて、日吉津村のホームページで紹介しています。今回の事業が日吉津村の1年間の予算に占める割合が大きかったこともあります。すべて税金を使っての事業なので、慣れてしまえば何とも思われないかもしれませんが、住民の方に新しくて便利な情報伝達手段を導入したことを理解してもらうために、言葉だけでなく写真を載せたり、以前の防災用行政無線との違いを図で紹介しています。やはり住民に今回の整備を認知していただいて初めて、今回の事業が意味あるものになると思います。
また、今回の防災用行政無線のデジタル化を検討する際に、自分でもインターネットで他の自治体やメーカーの事例などを調べてみたのですが、あまり参考になる情報を見つけることができませんでした。同じ行政のネットワークでお互いに情報提供しあって、自分の自治体の地理や気候の条件にあったものだけを選択できるような協力ができたらとも考えました。このような自治体間の共助の取り組みがないと、1つの自治体では財政的にも厳しく、新しいことに取り組むのは難しい環境です。ぜひ参考にしていただけたらと思います。

-仲原さんのモチベーション維持の秘訣は?

特別意識はしていないのですが、今回のデジタル化にあたっては住民が一人でも多く助かるようにとの思いがありました。私としては今までの防災行政無線では聴覚障がい者には意味をなさなかったので、あわせて文字表示機も導入しました。できるだけ多くの人の役に立てればと思っています。今回の防災行政無線の事業もそうですが、村道温泉線も日吉津村民だけでなく近隣市町のみなさんのメリットになるように、みなさんに喜ばれるように、使ってもらえるようにという思いを持ち続けています。それがモチベーションになっていますね。

-全国の防災担当者の方へのメッセージをお願いします。

行政規模や地形が異なれば、同じ防災担当といっても、やるべきことをどこまでやっていいのかというのはそれぞれだと思います。防災対策はゴールがないとは思うのですが、私の経験としてはあまり隣の市や町がここまでやっているとかを気にせずに、日吉津村の約3,400人の人口に見合う対策を考えてきました。現在の日吉津村にとって必要な対策、地形や障がい者の方のことも考えて、できることを最低限のところで構築していけばいいと思います。それ以外のことは、近隣の自治体との広域連携等で進めていければと思っています。
「想定外はダメ」ということも言われていますが、それを頭の片隅に置きながら、現実的に考えられる災害で必要な対策のラインを見定め、予算を要求したり事業を進めていけばいいのではないでしょうか。他の自治体をあまり意識せずに、自分の自治体の特性にあわせた防災対策の構築を割り切って考えていったらいいと思います。
日吉津村の防災は防潮堤などのものを作るというよりも、「住民に早く正確な情報を伝達する」というのが基本的な考え方で、防災行政無線のデジタル化に集約していきました。まだ移動系の防災用行政無線の課題は残っていますが、同報系のデジタル化は完了しましたので、後はこれに合わせて地域防災計画を修正した上で、災害ごとの避難方法・避難経路などを住民に周知し、行政は正確かつ迅速に情報を伝達していきたいと思っています。すべての住民がそれを聞いて時間に余裕をもって避難してもらえるようにしていきたいと考えています。

日吉津村の概要と想定される自然災害

鳥取県日吉津村の概要

日吉津村は鳥取県の西北端部に位置する、人口約3,400人の鳥取県で唯一の村です。北は日本海に面し、その他の周囲を米子市に囲まれています。東は西日本一を誇る国立公園大山の雄姿を望み、西は鳥取県三大河川の日野川が流れる気候温和な平坦地です。
日吉津村は大字日吉津、富吉、今吉の3集落からなっています。古くは稗の生えた海岸の沼地であったので稗津(ひえづ)と呼ばれていましたが、1571年以後に日吉津に改められ現在に至っています。
おもな産業としては農業が盛んで、日吉津村の全面積の約38%が耕作地です。おもに米や白ねぎなどの野菜類、チューリップの球根をはじめ花き類などの栽培が盛んに行われています。

過去の鳥取県西部地震の経験を活かし、災害発生時の情報伝達手段を見直し

日吉津村では、過去には平成12年10月に鳥取県西部を震源とするM7.3の鳥取県西部地震が発生しました。鳥取県西部は地震空白域とされていますが、未確認の地下断層の活動による地震であったといわれています。日吉津村でも震度6弱が観測され、かなりの揺れがあったものの、目立った被害は発生しませんでした。
日吉津村は、地震や台風などの自然災害による甚大な被害を受けたことはほとんどありません。台風やゲリラ豪雨などで降水量が多くなっても、農作物の水没程度で民家への浸水などの被害には至っていません。しかしながら、「住民への迅速かつ正確な情報伝達こそが防災の基本」という日吉津村の考えにより、防災行政無線のデジタル化事業を実施。さらに戸別受信機や文字表示板などの導入、非常用親局の整備により、有事の際には多様な手段による確実な情報伝達が可能になっています。

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