自治体防災担当者による “現場からの提言”(第5回)

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自治体防災担当者による “現場からの提言”(第5回)

第5回目は、2013年(平成25年)に緊急情報伝達のためにコミュニティFMの開局や屋外拡声器(ホーンアレイスピーカーシステム)を整備、現在は防災ラジオなどの普及による緊急情報の提供に力を入れておられる愛媛県宇和島市の総務部 危機管理課 課長の山下真嗣氏にお話をうかがいました。

スペシャルインタビュー

地域の情報化、ネットワーク化を防災に活用。災害情報を一元化して屋外、各家庭に伝達する。

宇和島市役所 総務部 危機管理課

課長 山下 真嗣(やましたしんじ)氏

-山下さんが宇和島市役所に入庁されてからの経歴を教えてください。

大学を卒業し、宇和島市役所に入庁して今年で23年になります。危機管理課には、今年(平成26年)4月に配属されました。それまでは納税課や公民館の主事をしたり、固定資産税係で課税の担当をしたり、広報担当として市の広報誌の編集に携わったりと、3年ごとに異動していました。
前の企画情報課には、旧宇和島市と吉田町・三間町・津島町が合併する前年の2003年(平成15年)4月に配属になり、宇和島市におけるICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)関連事業の推進に11年間携わりました。合併にともなって高速インターネット回線を整備する「旧宇和島市・吉田町・三間町・津島町連携 平成15年度 地域イントラネット基盤施設整備事業」に始まり、旧市町村のシステム統合、約200の公共施設(小中学校、公民館、診療所など)を光ケーブルで結ぶイントラネット整備事業、イントラネットを活用した住民向け通信環境整備など、地域のネットワーク構築や情報化に関わる11もの環境整備事業を担当しました。
最近では、2012年(平成24年)に、宇和島市の「コミュニティFM」開局にも携わりました。市長は東日本大震災以前より、「コミュニティFMは防災にも活用できるので、ぜひ開局したい」という思いを持たれていました。しかしながら、当時は、国が防災目的でコミュニティFMを使用することを認めておらず、開局は困難な状況でした。そのような状況の中で、企画情報課の私のところに話が来て、開局事業に携わることとなりました。開局にあたっては、宇和島ケーブルテレビ様の協力を得て、平成25年に開局までこぎつけました。
企画情報課では、通信やネットワーク系の事業をおもに担当してきましたが、それまでとくに意識して通信に関する勉強をしてきたわけではありません。個人的には興味があったのですが、異動によって通信関係の知識習得のモチベーションは上がりましたね。常に新しいことにチャレンジしているように見えますが、現在取り組んでいることが次に新しく取り組まなければならないことのバックボーンになっている感じで、縁というかつながりを感じます。

-山下さんが現在取り組んでおられることは?

先ほどのコミュニティFMの開局の話にもつながりますが、宇和島市では、総務省の「防災情報通信基盤整備事業費補助金」を活用して、「コミュニティFM割込音声告知システム整備事業」を行っています。災害関連情報などをコミュニティFMの放送やケーブルテレビを活用して、一括配信(割込放送)できるシステムで、現在はコミュニティFMで起動する防災ラジオを宇和島市全戸に配布する取り組みを行っています。
また、宇和島市街地の住宅密集地域にコミュニティFMの音源を広範囲屋外スピーカー「ホーンアレイスピーカー」で放送しています。「防災ラジオを配布すれば、屋外スピーカーは不要では?」といった意見もありましたが、屋外にいる市民や登下校中の子どもたちには聞こえない状況を説明し、設置することになりました。

設置にあたっては、伊丹市の柳田さん(当特集4回目ご登場)にもお話をうかがいました。実際に試験放送も聞いて、設計に活かしました。出張旅費の承認に一苦労しましたが、宇和島市の防災のためのスピーカーなので、しっかりと先進地にも視察に行って実際の音を聞いて設計したい旨を説明し、了承を得ることができました。旧3町は一般的なストレートホーンスピーカーの防災行政無線だったので、スピーカー付近の住民からの騒音苦情がよくありましたが、ホーンアレイスピーカーは間近でもうるさくないので騒音苦情は今のところ寄せられていません。

-今後の取組みを教えてください。

前の企画情報課では、目指すところが地域の情報化だったので、さまざまな事業を取り組んでいく中で、「地域の情報化が防災に活用できる」という確信は持っていました。今年の4月に危機管理課に異動になりましたが、地域情報の防災活用を宇和島市全域、全市民に行き渡らせることは一筋縄ではいかないというのが、現在の率直な感想です。これからさらに危機管理の勉強をしながら、次の施策、展開を考えていかなければと思っています。
中でも、防災ラジオは宇和島市全体で、18,000台を配布、約57%の配布率(2014年7月現在)になっていますが、各家庭に訪問しても留守の家庭も多く、なかなか配布率が上がってこないのが目下の悩みです。吉田町・三間町・津島町の旧3町については、以前より防災行政無線の受信機が各家庭にあり、屋外にも同報用の防災無線機があり、何らかの放送が毎日流れているという環境だったので、比較的防災ラジオを受け取ってもらえます。一方、旧宇和島市に関しては防災行政無線も何もない状況だったので、防災ラジオを配布すると後でお金を徴収されると思われる高齢者の方が多くて、配付に苦労しているところです。
対策としては、以前は臨時職員が一世帯ずつ訪問して防災ラジオを配布していましたが、平日の日中は共働きで留守が多いので、地元の金融機関や電力会社などの総務部門に会社単位で取りまとめを依頼し、配布されていない社員を確認して配布している状況です。企業も防災への意識が高まっており、社員教育も強化されているので、その一環として防災ラジオを配付していただいたらという考えもありました。これにより、ある程度の配布率の向上は期待できると考えています。
その他、宇和島市街地に関してはホーンアレイスピーカーでコミュニティFMの音源を放送していますが、旧3町については防災行政無線の設備があったので、それを整備しようと準備をしています。移動系防災行政無線と同報系防災行政無線の両方を整備するには費用もかかるので、移動系防災無線を整備して、同報系にも利用していきたいと考えています。なおかつ、先ほどのコミニュニティFMも連携させて、全てを一つに連携させた仕組みにする予定です。コミュニティFMの音源を活用し、屋外放送についてはデジタルの防災行政無線で拡声し、各家庭には配布している防災ラジオを活用して緊急情報の提供を行うことにしています。

-山下さんが事業を担当する上で、重視されていることとは?

私は何かの事業を担当しているときには、先進的な取組をされている自治体に直接連絡をして会いに行くようにしています。会って話をうかがい、データを見せてもらい、実際に目で見て、耳で聞くようにしています。その上でこちらが後で整備するので、視察した以上は宇和島市に適した規模、設計になるようにしっかりと勉強するようにしています。
具体的な相談方法としては、電話ではなく、できれば足を運んで、実際に顔を突き合わせて相談するのがいいと思います。国の上級官庁の場合でも、相手の予定が空いていれば、親切に対応していただけます。他の自治体の場合は電話で教えていただくことも多いですが、とくに国へは実際に出向いて話をする方がいいですね。全然知らない人が電話で相談するよりも、一度でも会って顔見知りになっていた方がお互い理解も早いですし、回を重ねることでそのうち電話にシフトすることもできますから。
そういう意味では、私はまったく関係のない部署に行っても、積極的にコミュニケーションをとるようにしてきました。また、企画情報課では、総務省の四国総合通信局によく行き来をして、情報収集や情報交換などを行っていました。そのつながりもあって、地域情報化の整備を熱心にやっていたときに局長表彰をいただきまして、今年に入ってからもコミュニティFM関連でも表彰を受けました。その関係もあって、松山市で行われる防災フォーラムでの講演の機会もいただきました。このような人脈やネットワークづくりも大切にしていきたいと考えています。

-全国の防災担当者の方へのメッセージをお願いします。

先ほどの人脈やネットワーク構築にもつながりますが、何らかの事業を担当する場合、配布されている広報誌や専門の業界誌、Webサイトなどでの情報収集だけでは、どうしても限界があります。役所の人間は割と縦割り意識が強い傾向にありますが、情報を収集するのに横の人とのつながりを活かさない手はありません。何か事業を進めていく中で、横のつながりを広げていけば、より事業が進めやすい状況を作ることができます。

そして、なるべく足を使って、会って具体的な相談をしたり、現地を視察することをお勧めします。とくに私は、初回の相談や打ち合わせの際に簡単な資料を作って、アポイントを取って相談するようにしています。資料といっても、大まかな自分が実現したいイメージをまとめて、イラストなども使いながら、ひと目でわかるような資料を心がけています。決して役所的な文章や専門用語は使わず、長々とした説明にもなりすぎないように注意しています。これは、上級官庁や他の自治体、業者への相談だけでなく、市役所内部の打ち合わせ、例えば市長に対しても非常に有効ですので、一度試してみてください。
私の場合は、そこで過去に市の広報誌の編集に携わった経験が活きました。また、ホーンアレイスピーカーの設計では、過去のICT関連事業の際に、200カ所以上もの市内の公共施設に実際に足を運んで作業した経験が大いに役立ちました。
私は今までの職務をフル活用して、設備や人脈など使えるものはすべて使って新しい事業に取り組んできました。皆さんも活用できるものは何でも活用していく姿勢で、ともに地域の防災・減災に役立つ取り組みを行っていきましょう。宇和島市の取り組みが皆さんのお役に立つのであれば、いつでもご連絡ください。お待ちしています。

宇和島市の概要と想定される自然災害

宇和島市の概要

宇和島市は、愛媛県の西南部に位置する人口約82,000人の中心都市です。平成17年8月1日に、旧宇和島市、吉田町、三間町、津島町が合併して、新しい宇和島市が誕生しました。
西は宇和海に面し、入り江と半島が複雑に交錯した典型的なリアス式海岸が続き、東側の鬼ヶ城連峰は海まで迫る急峻さを備え、起伏の多い複雑な地形をしています。海岸部の平野や内陸部の盆地に市街地や集落が点在しています。
年平均気温は16~17℃と四季を通じて温暖な気候で、みかんの花が市花に指定されているように、全国的にもみかんの産地として有名です。
宇和島市は“伊達十万石の城下町”と呼ばれ、江戸時代から四国西南地域の中心として発展してきました。観光名所の宇和島城天守閣は現存十二天守のひとつで、宇和島の港が見渡せる市民の憩いの場としても親しまれています。

南海トラフ巨大地震への備えはもとより、台風による大雨や洪水、河川の氾濫などの対策も

宇和島市では、過去には昭和43年8月に宇和島湾を震源とするM6.6の地震が発生しています。2013年12月26日に発表された「愛媛県地震被害想定[最終報告]」によると、南海トラフ巨大地震による被害想定は、宇和島市で最大震度7、最大津波高は宇和島港で6.5m、吉田港で6.0m、岩松港で7.5mが想定されており、これに合わせて減災対策が整備されています。
日常的に起こる災害としては、台風がかなりの確率で宇和島市付近を通過しています。台風にともなう大雨や洪水、土砂災害などが想定されています。「宇和島市防災マップ」などを通じて、台風、大雨、地震、津波など災害によって被害が想定される箇所や避難所の位置、「津波浸水想定区域」、「土砂災害危険箇所」等のとくに注意すべき場所などをまとめて表示。注意喚起を行っています。

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